研究現場のDX

働き方
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こんにちは、ノブです。皆さんは業務でコンピュータ(以下PC)使ってますか?研究活動にもPCが必須になってどのくらい経ったのか分かりませんが、私が学生だった頃と比べてPCの持つ役割がどんどんと大きくなっているのを感じます。

そして、今日は今話題のDXについて、研究現場にいて思うところを。

DXとはなんぞや

DXというワードがバズり、猫も杓子もDXな今日このごろ。でもその中身がよく分かりません。

WikipediaでDXの解説を見てみると、

「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念である。
(中略)
ビジネス用語としては定義・解釈が多義的ではあるものの、おおむね「企業がテクノロジー(IT)を利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」

とのこと。「あらゆる面でより良い方向に」って凄いですね。全く具体性がなくて。

私も「AIとDXが重要だから、データを活用して組織にベネフィットが出る何かをやれ」という地獄のような命令を受けて、てんてこ舞いしております。

なお、どういう意味か問い詰めたら偉い人が黙ってしまい、地獄は悪化しました。

上に期待するのはやめ、(この時点で間違っている気がする)自分でDXを噛み砕き、研究現場におけるDX活動としてすべき事を考えてみることにしました。

事前に書いておきますが、非常に長いです。お覚悟を。

なお、本記事を作成するにあたり、ボスドンさんぷんたむさんから非常に多くのアドバイスやご指摘をいただきました。おふたりとも研究組織におけるDX活動について深く考えておられます。おふたりには普段からお世話になっておりますが、今後とも議論を続けさせていただきたいと思います。

DXって何?

いくつかDXに関する本を読んでみましたが、マーケット戦略ありきで書かれているものが多いです。ユーザとの接点を増やしつつ、データを元にした有益なサービスをユーザに提供することで利益を爆増!みたいな。

つまり、IT機器を駆使し、取得したデータを分析・活用し、今までの仕事をいい方向に変えたり、新しい価値観を提案・提供したり、解決できてなかった問題を解決したり、効率をアップさせたり、利益を増加させたりしましょうよ、ということですね。これでもめっちゃ幅広いですが。

で、研究現場でのDXの場合はターゲットが2種類に別れます。1つ目は先述の顧客をターゲットとしたもの。これは顧客の属性や購入履歴など、顧客に関するデータが重要です。

2つ目は研究員やその業務をターゲットとしたものです。こちらは研究員のもつデータや業務内容に関する知見が重要になってきます。

この記事では特に、研究員やその業務をターゲットとした2点目のDX活動について、私の考えを述べます。データを元に研究員の考え方や働き方、アウトプットの質や仕事効率を良い方向に変えるためにはどうしたら良いのでしょう。

特にDXの「トランスフォーメーション」の部分が謎です。これは何を意味するのでしょう。研究現場では「何をトランスフォーメーションしたくて、何をデジタル化する」べきなのでしょうか。デジタル化できそうなものといえば研究現場で生じるデータですが、データをデジタル化することで現場の何かを変えることができるのでしょうか。

研究現場では

でも研究ってそもそもデータに基づいてやるものでしょう?データを用いて現場を変えるDXなんて余裕なんじゃないの?と感じる方もいるかもしれません。

確かに研究はデータに基づいて進めます。自分の研究テーマに似たような分野の研究データと比較することは多いですし、そもそも自分の研究データは自分の仕事そのもの、とも言えます。

しかし、データを使って何をしたいのか、どのような問題を解決するか or 強みを伸ばすかという方向性が具体的に決まっていないと「社外でどんな取り組みがあるか勉強会しましょう」から活動は始まります。で、真似できそうなモノを多数決で決めて、取り組もうとするも社内にはニーズや現実的なリソースがなくて頓挫する、と。それならやらない方がマシです。

多分、偉い人たちはデータをたくさん集めてPCでカタカタってやって、何か素敵な結果が出て、ウフフ、オッケー☆バイバーイ。ってしたいんでしょうが、そう簡単にも行かんのですよ。

まず、研究現場でのDX活動を推進する上でハマりそうなポイントをいくつか挙げます。

①そもそも、具対的に何を目的とした活動なのか
絶対的なスタートはここです。「具体的に何のためにDX活動を進めるのか」をはっきりしましょう。最初は簡単な内容が良いと思います。

ここで重要なのは具体性。「持っているデータを解析して業務を効率化したい」とかではダメです。「誰が持っているデータを、どのようにして、何の業務を、何の目的で、どうしたいか」までハッキリさせましょう。その上で、「その活動はやる価値があるか?」をトコトンまで議論して下さい。ここが固まってない活動は絶対に行き詰まります。

②解析/予測で素敵な結果が出たのかをどうやって判断するのか
目的が決まったとしても、「目的を達成できた!」と判定する基準が無ければ活動の結論は出ません。「〇〇の工程にかかる期間が20%カットできること」など、成功条件を決めましょう。この部分は後で修正できるかもしれませんが、判定基準は必要です。そうでないと検討結果が良かったのか悪かったのか判定できません。

③どうやってデータを集めるのか
全くのスクラッチからDX活動をする際にはおそらく、ここが一番大変なステップになります。

研究現場にはデータが蓄積されていますが、「誰が、何のデータを、どのような品質で、どのようなフォーマットで所有しているか」を把握し、データを集約しなければデータを利用した活動はできません。

例えば、過去データの所在を知っているはずの人が異動や退職・転職しているとお手上げです。

また、データが紙に手書きの状態で保存されている、測定装置専用のスタンドアロン機に保管されている、などデジタル化/共有化されていない場合は何とかして全て読み込むか、そのデータの使用を諦めるか判断する必要があります。

さらに、データが均質でない、フォーマットが異なる、測定データに抜けや漏れがある、途中から測定条件が変更になった、効果的な解析をするためのデータを今まで測定してこなかった、などなど問題はいくらでも出てきます。

加えて、「何でウチのデータをアンタのとこの解析に使わせてやらなければならないのか!」などという部署の垣根など、組織的な問題もあります。

正直、①〜③がクリアできれば最初の活動の7割方は終わっています。特に③。一番ヤバいのは③。

④誰がどうやって予測・解析するのか
はじめから誰もがプログラミングを学ぶ必要はありません。社内にデータサイエンティストがいるのであれば解析を依頼しても良いですし、興味のある人が自分で勉強したり、社内の詳しい人に教えてもらいに行ったりと色々と方法があります。

ただ、依頼に際して「そのデータが生み出された業務の背景」は詳細に説明する必要があります。なぜなら、依頼を受けた際の人間は、実際の業務内容を深く理解出来ていないケースがあるからです。

例えば試験管スケールで行っていた実験のデータに、急に「原料500 g」というデータが含まれていた場合、現場の研究員なら「このデータ、何か間違っている!ミリグラムでは?」と気づきます。(一般的な試験管には500 gもモノは入らない)

しかし、解析者にこのような現場の知識(ドメイン知識)がないと、間違ったデータはそのままスルーされ、解析しても間違った結果しか出てきません。

なので、部署外に依頼するのであれば、担当者と緊密にコミュニケーションをとれる関係性を構築することが重要です。

また、上記問題を避けるためにも、現場の研究者が解析を行う、というのも現実的な方法だと思います。業務内容を熟知していれば、簡単なデータの間違いには瞬時に対応可能です。

ただし、プログラミング知識のないメンバーに対していきなりプログラミングを強要するのは無謀です。不慣れなためか、コードを見ると生理的に無理!ってなる人が私の周りには多いです。

全員がプログラミングを理解している職場はDX的な活動がしやすいのかもしれません。が、プログラミングはあくまでもツールであり、目的ではありません。「全員がプログラミングできるようになったのでDX達成しました!」とはならないのです。

統計解析や簡単な予測だけであればプログラミングの知識がなくても使用できるツールがありますし、まずはそこから検討開始すると良いと思います。

この辺、役割分担の割り振り方とかも含めて私なりに方法論がありますが、非常に長くなるのでニーズがあれば別記事にします。

⑤解析結果にどう結論づけるか
解析が終わったら、その結果の妥当性を確認しましょう。ここは現場の知識が必要になります。そして、その結果を受けて検討を終了するか、継続するか、方法を修正して再検討するか、など今後の活動に向けた方針を決めましょう。

③で指摘したデータの質が悪いと「何だこれ?」って結果になる可能性もありますし、「もっと○○のデータを集める必要があります」となるかもしれません。そんな時は③に戻りましょう。データの集め直しです。

現時点で測定してない?では、頑張って測定系を作ってデータを集めてください。それこそ実験した時間帯の温度とか湿度とかが問題解決にとって重要なポイントかもしれません。そう感じたのであれば、記録する仕組みをひとつひとつ作りましょう。だから③が一番大変なんですって…。

⑥活動を組織内にどのように根付かせるのか
基本的に解析結果や予測精度は、データの数が多いほど正しい結論を導きやすくなります。

研究活動はこれからも続くわけですから、どんどん新しいデータが出できます。上記で行った活動も継続する必要があるかもしれません。

そんな時、誰が活動を主導するのか。その活動は業績としてどのように評価されるのか。万一に備えて、いつでも引き継ぎが可能な情報共有体制はあるか。活動を根付かせる地盤を作る必要があります。

そして、DX活動で最も重要なのは「データに対する現場研究者の意識をどのように変えるのか」というポイントだと思います。

部署間を超えて社内フォーマットを統一するとか、あいまいな表記を避けるとか、解析を阻害する神エクセルを根絶するとか。言葉にすると単純ですが、各種部署内ルールが入り乱れていたりするケースもあり、組織を超えてメンバー全員に徹底するハードルは相当高いです。

上は事態を理解してますか?

さて、上記①~⑥に必要な活動工程を挙げました。わかっていない上司は「ふ~ん、解決すべき問題があるなら解決ヨロ」程度でリアクションしてくるかもしれませんが、この部分の重要性&大変さはきちんと共有しておくべきです。そうしないとあなたの仕事が速攻でパンクします。それぞれ具体的に指摘します。

③より
過去データの所在を知っているはずの人が異動や退職・転職しているとお手上げ。
引継ぎ時のデジタル化ルール策定が必要。もちろん関連するデータを持っている組織内全てで同意を得て、フォーマットを統一しなければなりません。組織間でフォーマットが違う?現場のメンバー全員を説得してください。

データが紙に手書きの状態で保存されている
OCR技術の活用などを検討しましょう。読み込みが正しくできているか検証し、うまくできていないデータの扱いをどうするかも決める必要があります。うまく読み込めないデータから受ける影響を最小限に食い止めることが理想です。

データが測定装置専用のスタンドアロン機に保管されている
装置専用PCがネットワークに問題なく接続できるのなら良いのですが、OSが古い、社内のセキュリティ基準に合致していない、など問題がある場合はPC/ソフトウェア更新が必要です。もちろんそのためにまとまったお金がかかるケースがあります。そして機器側がそのPCに対応していない場合は機器側のソフトウェアアップデートが必要なケースもあります。マニアックな機器のソフトのアップデート、お高いんですよねぇ。。。

データが均質でない
最低限のデータ取得共通ルール制定が必要です。もちろん関係する全組織で徹底する必要があります。あるいはロボットによるデータ取得で均質にする方法もあります。その場合はロボットやラボオートメーションに詳しい人・業者による介入も必要になります。

フォーマットが異なる、測定データに抜けや漏れがある
欠損値の除外 or 置換/代入取扱いなどのルールを制定したり新規の記録が必要になります。置換する場合は平均値、中央値、最小値などなどですが、現場の研究者が納得する形でデータを整える必要があります。機械学習はデータ前処理が命ということを理解しなければなりません。

途中から測定条件が変更になった
変更前後でデータがどのような関係になっているか、数値を対応(ブリッジング)させてデジタル化する必要があります。ブリッジングのための検討が必要であれば新たな実験系を立ち上げる必要があります。

効果的な解析をするためのデータを今まで測定してこなかった
ここは重要ポイントだと思います。DX活動で人間の想定を超えるインサイトを得ようとしたら、だいたい足りていないパラメータや見ていなかったデータを取りにいかないといけない気がします。

土台となるドメイン知識だけはでなく、最新の知見を論文で調査したりプロフェッショナルの意見を聞いてみる必要があるかもしれません。また、必要と想定されるデータは現実的に測定が可能なのかも考える必要があります。お高い装置を使わないと測定できないのであれば短期的にはデータを揃えることはできません。

④より
部署外に依頼するのであれば、担当者と緊密にコミュニケーションをとれる関係性を構築することが重要
最低限の機械学習/統計の知識および高度なコミュニケーションを兼ね備えた、いわゆるエキスパートジェネラリストと呼ばれる役割の人が必要となります。そのような人材が組織内にいるのか、育成する必要性と組織の余裕があるのか、組織的な人材育成方針や戦略策定にも関わってくる部分です。つまり、偉い人を活動に巻き込む必要があります。

上記はそれぞれトップダウン、ボトムアップどちらでやるか考える必要がありますし、リーダーの方針、組織内の文化や風土によってもフィットするやり方が異なります。偉い人には「それぞれで発生する業務の量を可視化して役割分担をし、可能であれば専業で担当させて専門家を育成する覚悟はありますか?」という問いにぜひ答えていただきたいと思います。できないのであればDX活動の効率的な進捗は望めないことを覚悟してください。

DX活動を推進するには

まだまだ愚痴指摘すべきポイントはありそうですが、上記全てに共通して必要なものがあります。

担当者のやる気と、マネジメント層の理解です。

この活動、目に見える成果を出すまでにはなかなかの時間と労力を必要とします。しかも、最初の目的設定や蓄積されたデータの量・質によっては導き出された結果がショボいかもしれません。現状を何も変化させないかもしれません。

それでも、データに対する現場メンバーの意識を変えることができれば最初の活動としては大成功だと思います。

マネジメント層がそれを理解していないと、担当者は何も評価されず、やるだけ損になり、DX活動の芽は二度と育たなくなってしまうかもしれません。そのやる気と方法論が正しかったかどうかを踏まえて活動を評価すべきかと思います。

そのためにはトップが「DX!DX!」と号令をかけるだけではなく、マネジメント側も含めた現場の当事者全員が上記の内容を理解し、納得の上で活動を進めることが一番の近道であると思います。必ずしもすべての組織でDX活動を進めなければならないわけではありませんし、やるのであれば担当者がストレスに悩まされることが無いような協力体制を構築した上で効率的に進めて欲しいと思います。

この記事が少しでも研究現場でのDX活動に繋がることを祈りながら、今回はこのへんで。(もしかしたら続くかも)

ノブ

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