誰がどこで何を学ぶのか

研究

こんにちは、ノブ (@chemordie) です。2022年最初の投稿です。本年もよろしくおねがいします。

最近、思うところあって学びについてツイートしたところ、いくつかコメントを頂きましたので、本日はその話です。

融合によって生まれるもの

我々科学者の武器といえば論理的思考能力と専門性だと思うのですが、科学の発達に伴い各分野の深みがエグいことになってきているように感じています。うまく言葉にするのが難しいのですが、10年前とは比較にならないほどマニアックさに磨きがかかってきているというか。

その理由の1つが他分野技術との融合や他分野技術の転用にあります。例えば有機化学と細胞生物学の融合で生まれたケミカルバイオロジーはその代表例です。細胞内の様子を理解したり、細胞内の状態を人為的にコントロールしたりする可能性を秘めたこの学問は非常に魅力的な分野だと感じます。

ただ、学問分野の融合によって新たな問題も生まれているようです。とある大学教授の先生に聞いた話では、「有機化学も細胞生物学も数年かけてようやく基礎固めができる学問なのに、どちらの知識も必要なケミカルバイオロジーの分野では学生さんを教育し実践させるハードルが非常に高くて悩ましい」と嘆いておられました。

このように、多分野の融合によって生まれた新分野は魅力的なのですが、教育(学習)に非常に時間がかかるというデメリットもあります。何せ、人間一人一人にできることには限界があります。時間も労力も有限ですから。

昨今のAIブームもあり、「情報科学×専門知識」という組み合わせは非常に盛り上がっていますし、ものづくりの現場における「ロボティクス×専門知識」も非常に魅力的です。また、「MBA×専門知識」でキャリアアップをすすめるビジネススクールは昔から巷にあふれています。

研究者として1つの専門分野に特化した人間が他の分野を学ぶ場合、どのように勉強していけばよいのでしょうか。

独学における落とし穴

ありがたいことに、ネット上には無料で学べる教材や資料が大量に存在します。また、「〇〇を手っ取り早く初めてみたい人はコレがおすすめ!」のような、とりあえず始めてみたい人向けのブログ記事なども数多くあり学習ハードルを下げてくれています。

コロナ禍で学びの場の多くがオンライン化されたこともあり、大学が講義動画や教材をウェブ上で公開するケースも増えています。私も年末年始休みを利用して、米ハーバード大のコンピュータサイエンス入門講座「CS50」を日本語化したプロジェクトの恩恵に預かっておりました。

https://cs50.jp/

動画で学ぶ上でのメリットは、教師と生徒が時間や場所を超えて学ぶことが可能であること、再生速度を変えることができる場合があること、外国語を翻訳した字幕が表示できる場合があること、などで、学習のハードルは更に低くなります。

ただし、デメリットも存在します。動画での学びは基本的に独学です。分からない部分は他の人にすぐに聞くことはできません。分かっている人に詳しく解説してもらえればその日のうちに解決するような内容を、何日も一人で調べ続けることになったり、最終的にわからない部分を放置してしまったり、よくわからなくて学習がそこでストップしてしまったりする可能性があります。

また、動画の明快な説明を見て理解したつもりになってしまい、手を動かさずに満足してしまうケースもあります。このような場合、大抵は身につきません。(どちらも私の体験談)

さらに個人が作成しているブログや動画は、内容が正しいのか/説明が十分なのか判断できないこともあります。自分に事前知識がなく、その部分の解説がなければ正しく理解できない可能性も高いです。

つまるところ、独学の恐ろしいところは、体系的に正しい内容を学べているのか判断しようがないところだと感じています。

可能なら

というわけで、先日このようなツイートを見かけてつい本音が漏れてしまいました。学生時代の経験を考えると、社会人の学びなおしには、朝から晩まで勉強&研究にどっぷりと浸かれる大学院の環境はかなりアリだと感じています。

もちろん、研究現場では専門知識だけでなくチームをマネジメントする能力や研究成果を市場に出す工程を考える能力、外部との連携を行う能力などなど科学以外の専門能力も必要です。ですのでチームの誰が、いつ、どこで、何を、どのように学ぶのか、という全体最適を考える必要があり、アラフォーにもなればそのあたりも考えるべきなのかもしれません…。

ただ、自分のやりたいことを効果的に実現するためにも、可能ならどこかで体系的に学ぶ機会を得たいものです。年齢や立場とともに興味の対象は変わるでしょうが、いくつになろうとも学び続ける意欲は持ちたいものです。

ノブ

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