モダリティと薬価について -3-

化学

こんにちは、ノブです。

こちらは創薬(wet)Advent Calendar 2019の17日目の記事です。

昨日までの記事()でモダリティの発展と特徴について書いてきましたが、本日は今後の医療での各モダリディの使われ方と薬価について考えたことを書いていきたいと思います。

高騰する医療費

以前、ヘルスケア業界のビジネスモデルについての記事を書いた際にも指摘しましたが、先進国での高齢者比率は増え続けています。それに伴い各国の医療費は高騰し続け、医療財政が限界に近い国も少なくありません。

例えば日本では、増加する医療費を抑えるために従来2年ごとだった薬価改定(=基本的には既存薬の値下げ)を2021年からは毎年行う体制に変更することが決定しています。

この変更には年々増額する医療費を薬価の値下げで賄う、というなかなか無茶な現状が見え隠れします。もちろん影響を受けるのは製薬各社ですね。(もうやめて!とっくに製薬企業のライフはゼロよ…!)

では、今後の日本の医療システムを支えつつ、製薬企業が生き残る為に科学者はどうすれば良いのでしょうか。

新しいモダリディは新しい治療体系を作る

昨日まで見てきた各モダリディには特徴がありました。効果は高いが薬価も高いもの、安いが副作用が懸念されるもの、まだ使用例が少なく知見がないもの。

これらを組み合わせ、新たらに「費用対効果が最大になる治療体系」を生み出す事が、これからの科学者の役割の1つになると考えます。

今でも行われているような抗体と低分子の併用だけでなく、遺伝子治療の効果をアプリでモニタリングし、必要に応じて自己注射を勧めるなど各モダリディの組み合わせ方は無数にありますし、追加で介護ケアや運動・食事療法など、薬以外との組み合わせも考えられます。

例えばフィリップス社は健康管理・維持、疾病の予測や予防、診断補助やケアサポートなど大きなチーム医療情報をまとめてクラウド管理するプラットフォームを構築しています。
Healthsuiteエコシステム│Philips Healthcare

患者さんの生活スタイルや介護者との連携まで考えて新薬を創出する時代は既に訪れているのです。

日本の動向

ちなみに日本では2019年の4月から費用対効果による薬価改定制度をスタートさせています。まだ対象となる品目は少ないですが、患者さんの健康状態維持のために発生する金額を元に薬価を算定する方法です。(以下の記事が詳しいので詳細な説明は任せます)

(参考)Answers:薬価に「費用対効果評価」4月に本格導入-制度骨子のポイントは

各国でも既に医療技術評価(HTA)の導入が進み費用対効果(患者のQOLADL)が評価されています。

命に関わる急性&重篤な病気を治療できる薬剤は価値が高くなり、(=症状完治に繋がる遺伝子治療などの価値は現在同様高い)慢性疾患の対症療法薬や効果が低いものは薬価を下げられる方向に向かう、というものです。

この方式では、薬価はモダリディに関わらず決まります。将来的には、例えば「抗体=高い」とは一概には言えなくなる可能性も十分にあるということです。

さらに、新たな支払い方式も導入されている薬剤もあります。CAR-T細胞療法のキムリアは成功報酬型(治療1ヶ月後に薬効評価。効果があった場合のみ治療費を請求する)のプライシングモデルを採用するなど、効果判定を基にした支払いモデルは今後増えるでしょう。

予防や予測に使う薬剤は?

理想を言えば発病予測や予防までしてくれるサービスや薬剤が一般的になることが望まれますが、健康者には健康維持の重要性が浸透しにくく、ニーズが少ないためマネタイズは難しいとする予測が大多数です。(ワクチン接種など、確固たる実績と統計データが存在するものを除く)

また、長期にわたる健康維持の価値をどのように算定するかも議論の途上であり、予防を目的とした大規模&公的なヘルスケアビジネスの構築はまだ困難なように思います。

治療全体を見通す広い視野&メンバーが必要

3記事に渡って「モダリディと薬価」について書いてきましたが、いかがでしたでょうか。

将来的には、創薬研究者が疾患を考える際には以下が重要となりそうです。

・創出する薬は治療体系においてどのような役割を担うのか
・そのために必要となる薬の性能は何か
・適切なメカニズムはどのようなものか
・では、上記を満たすモダリディは何か
・そのモダリティ&薬剤で費用対効果は見込めるのか
・研究開発費はペイするのか、安定供給は可能なのか
・利益を考えると自社は存続できるのか

確実に、今までとは異なる新しい分野の研究者が必要になります。(公衆衛生学とか医療経済学とかアツいと思います。)

新しいモダリティとともに新たな薬剤評価法が生まれ、使われ始めました。新薬創出における研究の幅はより一層、広がりを見せそうです。

ノブ

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