【書評あり】ヘルスケア業界のビジネスモデルについて考えた

働き方
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こんにちは、ノブです。前回の記事続きで最近読んだ本の紹介と、読んだあとに考えたことについて。今回読んだ本は「ヘルスケア産業のデジタル経営革命」です。

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概要&感想

本書では近い将来、医療がどのように変化していくか予測・解説しています。医療が変化する背景は以下の4点です。

1. 高齢化に対する各国の医療政策
2. 1による支払い制度の変化
3. 新しい医療環境
4. 新しいビジネスモデル

以下、具体的に説明します。

1. 高齢化に対する各国の医療政策

医療の進歩や公衆衛生レベルの向上により、各国の平均寿命が延長しています。つまり、高齢化社会を迎える or 迎えつつある国が増えています。

現在の日本を見ればわかるように、高齢化は医療費が膨れ上がる要因です。このままでは、各国の財政は苦しくなるばかりです。

出典:総務省資料「2040年頃の社会保障を取り巻く環境

さらに、高齢者が増え続けると近い将来、確実に病床数(病院のベッド数)が足りなくなります。また、労働人口の減少も相まって病院の機能がパンクします。

病床の需要(黒線)が病床の供給(青線)を大きく上回る

出典:日本医師会総合政策研究機構資料「団塊世代を中心とした超高齢化社会における医療提供体制のあり方

このような現状を打破するために、日本政府は①ジェネリック医薬品の積極使用による医療費の削減②在宅介護・在宅医療による入院日数の減少、を眼目に掲げています。

2. 支払い制度の変化

上記の背景を受け、医薬品・医療機器への報酬制度にも変化が現れ始めています。

特に顕著な例は、①効果があったものにしか支払いを認めない、②患者が現実的にアクセスできない医薬品は特許を剥奪される、の2点かと思います。

①効果があったものにしか支払いを認めない
医薬品は今まで、一般消費材とは異なり特殊な使用/報酬体系が認められていました。つまり、「一度承認されてしまえば、適切な使用でないケースでも報酬が支払われる&市場に製品が残り続ける。さらにその評判(特に悪評の場合)は使用に影響されにくい」という状態でした。

薬効発現は人によって差が出ます。また、その領域の研究が不十分なために本来使用されるべきでない疾患に対して使用されるケースもあります。そして、効く/効かないに関わらず報酬が支払われてきました。

近年、その状況が変化しつつあります。それは、効果があるものしか支払いを求めない、というものです。

また、どれだけ入院期間を削減したか、再入院を防止したかなど、社会保障システムへの負担を低減したか、という点も評価ポイントとなります。

これにより、意味のない投薬は医療機関や医薬品メーカーにとってマイナス(損益)となります。どのような疾患に対して使われるべき薬なのか緻密な研究が求められるため、将来的には新薬創出のハードルはますます高くなります。

②患者がアクセスできない医薬品は特許を剥奪される
特許法が特殊なインドでは顕著ですが、「公衆衛生の観点から、特許の実施がない新薬は特許実施権(新薬製造)を第三者に強制的に付与する」という福祉政策が導入されています。

参考:「後発薬大国インドの特殊な知財事情

わかりやすく言えば「新薬が国民の収入水準に合致した値段でない場合は、公衆衛生のために他社に安く作って良い権利を強制的に与えますよ」というものです。初めてこの制度を知ったときは私も驚きましたが、WTOの全加盟国に認められている制度です。 今後成長が見込まれるアジアやアフリカの諸国で同様の政策が導入される可能性も十分に考えられるため、製薬メーカーは各国の医療現場や生活水準、法律、文化を加味しながら、「実際に患者さんにとって意味のある薬」を作っていく必要がある、ということです。

3. 新しい医療環境

上の段落で書きましたが「意味のある薬とは」と考えると何だか難しい気がします。

というのも、薬を服用して、はっきりとした結果が出なくてもとりあえず経過観察、というケースは心当たりのある方もいると思います。このような場合は、はたして意味のある薬だったのでしょうか。1〜2回/月、1回5分程度の受診や検査では、薬の効果や体調の変化を細かく追跡することは困難でした。特に、患者情報は紙カルテで管理されており、データとして扱うことにもハードルがありました。

そう、今までは。
電子カルテの普及や各種センサーを含むIoTシステム、画像認識などの発達により、患者さんのデータを取得・管理することは非常に容易になってきています。最たる例はApple watchでしょう。FDAに承認された心電計を搭載しているため、日常的な心電図データがそのまま医療データとして使用できます。

また、アメリカでは国家プロジェクトとして高齢者のデジタルマーカー取得研究が行われています。研究参加者に配布されたスマートウォッチやセンサーつきピルボックス、体重計、生活空間に設置された無数のセンサーなどが、高齢者の疾患症状や前兆となるシグナルをとらえることができないか、という研究です。

参考記事:「ITで在宅高齢者支援、米国の実験

このように、現在注目を集めているのが生活者の「リアルワールドデータ」です。疾病にかかる前、かかった後、治療を開始した後などで取得したビッグデータから薬効の確認ができないか、発症の前兆がつかめないか、予防ができないか、という研究に用いられます。データ取得のハードルは数年前と比較してかなり低くなっています。

データ取得のための医療機器やウェアラブルデバイス、センサーにはかなりの種類があり、例えば本書で紹介されている「心拍、呼気、睡眠レベル、姿勢情報の取得」が可能なベッドには私も驚きました。

参考:介護施設こそ“イノベーション”が必要だ —— リコーらが目指す「IoT介護」最新事情

このように、デジタルデータが医療を支える世界は広がっています。そのため、施した医療行為や処方した薬剤が患者や医療システムにどのような影響を与えたかモニターすることが可能となる未来はもうすぐそこまで来ています。

評価され、報酬を受け取るのは処方数の多い薬剤ではなく、「在宅による遠隔治療で入院件数をどれだけ減らせたか」とか「高い効果を発揮し再入院のリスクをどれだけ減らせたか」という「結果&価値」です。この考え方で行くと、現在は評価が困難な「予防」もおそらく高く評価されるようになるのでしょう。

我々研究者もその未来を想定し、どのような研究を行えるか/行うべきかを考える必要があります。 そして経営層は自社にとって何が必要か、何が必要ないかを熟慮しなければなりません。

4. 新しいビジネスモデル

ここまでの流れを整理すると、
・(生活の中から得られるものも含めて)リアルワールドデータが重要
・処方数ではなく、どれだけ患者や保険システムの利益に貢献できたかが評価のポイントになる未来がくる
・IoTやウェアラブルデバイスのおかげで、データ取得のハードルは下がっている

これら見ると、薬以外のシステムがかなり重要になってくることが分かります。今までの製薬企業が持っていなかった役割だけでも以下があります。

・データを集める仕組みを作る
・データを分析予測する
・予防のために健常人の生活にフォーカスして活動する(運動・食事・健診など)
・国や自治体のルールと財政方針にマッチした医療体系(遠隔治療なども含む)を提案・構築する

もちろん、治療のために新薬を研究・開発する役割も、質の高いジェネリック医薬品を安定的に供給する役割も今までどおり重要ですが、新薬創出のハードルがさらに上がる(真に利益をもたらしたものしか報酬を得られない)ことを考えると、上記の役割を担う人々とうまく連携する必要があります。

そして、本書内では「すべての役割を1社で保有する必要は無い。連携が重要」と主張しています。私の印象としても、規模がでかすぎて製薬メーカー1社で担当できる守備範囲ではないです。そして、そのためには「自社でどこまでの範囲を担当し、その為にどのような資産を保有するか早期に決める必要がある」としています。

1番規模が大きいのは、日常生活のデータを集めるためのインフラを形成し、ユーザーを集め、サービスのために供給する役割です。これは例えるならアンドロイドでサービスを提供しているGoogle、iTunesでサービスを展開しているAppleなどのような立場です。彼らのビジネスには基盤となるプラットフォームがあり、「プラットフォームビジネス」と呼ばれます。

プラットフォームビジネスではリアルワールドデータが重要と書きましたが、
・そのプラットフォーム上に参加してくれる一般ユーザーをいかに集めるか
・創薬研究のためにリアルワールドデータを収集する仕組み(デバイスやデータインフラ)も自社で持つのか、社外連携するのか
・自社の薬や商品が有益な使われ方をするためにどのようなサービスを展開するのか
・その為のパートナーは誰なのか(寝具メーカーやスポーツジムなども候補でありヘルスケアメーカーである必要はない。さらには患者さん&患者さん家族間をつなぐSNSや介護者などケアギバーへの医療情報の提供団体など直接的な営利追求団体ではない可能性すらある。)
・国により、生活習慣の違いが予想される。展開するサービス内容も国によって変えるのか

など、今までの創薬活動では考えもしなかった新しい疑問や興味が次々と湧いてきます。

例えば医薬品の即時配送だってサービスの一環になりえます。離島や地方に住んでいる方の遠隔診断や適切な処方も重要です。本書内では3Dプリンタで作成可能な「スプリタム」という薬剤を紹介しています。 遠隔診断のインフラが発達し、各地の調剤薬局に同様の機器が配備されれば、遠隔診断→近所の調剤薬局に処方箋をメール送信→その場で3Dプリント→1時間以内に患者への配送、の一連の作業が可能です。このケースでは化学合成というよりは製剤化技術の紹介ですが「カスタマイズ可能な医薬品の始まりを告げるものかもしれない(中略)インフラは整っている」とまで書かれています。そうなると足りないものは何でしょう。法整備?国民の理解?

ヘルスケア企業のビジネスモデルの変革は始まっており、この流れは変わらないでしょう。ヘルスケア起業やベンチャーは既存のビジネスモデルやオペレーションをぶち壊すモデル探求を覚悟を持って行わなければなりません。そして変革を嫌っている企業は、おそらく置いていかれるだけなのでしょう。 そのことを肝に銘じさせてくれる良書でした。

化学者の生きる道

ここまでが大体の内容&感想です。我ながら長い!

で、ここからが私が考えた「プラットフォームビジネス内での将来的な化学者の役割」についてです。

何度か述べましたが、パーソナライズドケアの考え方が浸透し薬の使途が厳格に規定される可能性があります。これは「利益が認められる場合にのみ報酬が支払われる」ためで、効果が現れる確度の高いケースをなるべく限定するためです。

その場合、ケミストの仕事として求められる内容として以下を思いつきました。

①適切な薬効を発現する薬剤のデザイン&合成(選択性、毒性、代謝安定性、DDSなども含む)
②疾患の原因や標的分子を明らかにするためのケミカルバイオロジー(MOA探索、予防戦略の立案)
③発症初期から患者を検出するためのバイオマーカー検出法 or 診断薬のデザイン&合成&使用法立案
④特定の疾患防止に役立つ成分を含むサプリメントや栄養食品の提案、開発

上記項目についてご指摘、ご意見などを頂けるととても嬉しいです。また、上記以外にも思いついた方はぜひ教えていただけると幸いです。

①②は(予防に注力する以外は)今までのケミストと同じ役割であり、すでに各所で盛んに取り組みが行われていますが、今まで以上に低コスト化&スピード&正確性を求められるでしょう。この分野でもインフォマティクス使用による優先順位づけと、機械による自動化で加速が求められるのは間違いありません。(ただでさえ日本には「3年以内3品まで」の新薬創出加算制度がありますし…)

③は私が不勉強でよく分かっていません。PETやSPECTという放射性医薬品による画像診断はありますが、そのための化合物探索に関わっている人はごく一部のように感じています。(詳しい方、現状を教えてください!)
ということで、現在、私はこの分野の勉強を始めております。

④については、完全に分かっておりません!薬にするには難しいものでも、トクホやサプリメントとしてイケるものなら…と素人ながら考えています。(詳しい方からのツッコミお待ちしております!)

で、先ほども書きましたが①〜④全ての機能を1社が保有する必要はありません。開発・販売・流通・グローバル展開まで含めると化学の分野だけでもいくらでも他社との連携が考えられます。

そうなると、自分が働ける場所の可能性は際限なく、かつ、患者さんだけでなく一般生活者を取り巻く幅広い業界に興味のアンテナを貼っておくべき(アンテナを張っておく人も必要)と思います。自分の化合物や、化学/科学の知識がどのようなサービスとマッチすると価値を最大化できるか、マーケティングや営業の知識も必要かもしれません。

こう考えると学ぶべきことが無限に広がり、とてもワクワクしてきます。今後の医療体系の変遷を予想するともに、化学だけにとらわれず幅広く勉強していく必要性を再確認できました。そして半月後にある「博士&博士課程コミュニティオフ会」が非常に楽しみになってきました。自分の世界を広げるチャンスは自分自身で作るのが一番早いのです。

ノブ

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