モダリティと薬価について -2-

化学
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こんにちは、ノブです。

こちらは創薬(wet)Advent Calendar 2019の16日目の記事です。

昨日の記事の続きです。今後の治療体系の中で各モダリティがどのような使われ方をするのかという事を考える前に、今回はそれぞれのモダリティの特徴についてまとめてみました。

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各モダリティの短所・長所

昨日の記事の最初に様々なモダリティが存在することを紹介しましたが、それぞれ特徴があります。以下、私の印象をまとめます。あくまでも「〇〇という傾向が強いよ」という内容であり、もちろん例外は存在します。

①低分子(分子量500以下)
利点:作る側からすると化合物上の置換基の細かなチューニングがしやすい。化合物ライブラリやパーツとなるビルディングブロックも豊富。
薬としては安価で安定的な大量供給が可能。ある程度長期の保管ができ、輸送もしやすい。消化管からでもある程度は体内に吸収されやすく、経口剤(口から飲む薬)にできる。BBBによる障壁がある脳も狙える。経口剤以外にも、注射剤、塗布剤、貼付剤など幅広い剤形を選択可能。

欠点:ターゲットに対する特異性を担保することが困難で、副作用の懸念がある。

②中分子(分子量500~2000、天然物やその誘導体、ペプチドやマクロサイクルなど)
利点:PPI(タンパク-タンパク相互作用)など、タンパク表面の浅く広い面をターゲットとするメカニズムを狙える。(低分子は苦手なことが多い)
特定のターゲットに対する選択性を飛躍的に向上させる例が知られており、副作用問題を解決しうる分子設計ができる。化学合成が可能で、比較的低コストで大量安定供給を確立しやすい。

欠点:低分子ほど研究の歴史がないためノウハウが蓄積されておらず、安定的な合成法やライブラリの構築には各社苦労することがある。一方でその部分を強みにした製薬会社やベンチャーも数多く存在している。日本国内では東大発のバイオベンチャーであるペプチドリームが有名。

③抗体ADC・ナノボディ
利点:抗原抗体反応を利用してターゲットに結合するため、特異性が高い(副作用が出にくい)。リサイクリング能を持つ抗体は長い血中滞留性があるため、効果が(比較的)長期間持続する。

欠点:薬価が高い。基本的に注射剤しか剤形がないため患者さんにとって負担が大きい。特殊な製造設備が必要で安定供給を確立する難易度は高い。変性や凝集を避けるため、低分子薬より厳格な保存条件(温度、濃度、pH、添加物)が必要で、大規模な輸送に難あり。

核酸医薬(詳細はWikipediaなどを参照。分子量としては中分子に該当することも)
利点:化学合成が可能で、安定供給が確立しやすい。(と言われている。)低分子などでは狙いにくいRNAをターゲットにでき、疾患の”原因そのもの”の治療ができる。
特異性が高い。(と言われている。)各社で強みとなる基本的な構造を決めてしまえば、ターゲットと相互作用する部位の配列を組み替えることで他のターゲット配列にも適用可能。(ということでこの分野も強みを生かしたベンチャーが略)

欠点:肝臓や腎臓に集積しやすく、体内の狙った部位に送達することが困難。異物と認識され免疫系の副作用が生じることがある。
レアな疾患の場合は薬価が効果になる。ヌシネルセンのケースは有名。

⑤免疫細胞治療
利点:生きた免疫細胞を利用した薬剤。低分子では実現できない新しいメカニズムで疾患治療が可能。がん領域で用いられているCAR-Tは有名で、特異的にがん細胞のみを攻撃する。他にもTCR-Tという細胞種の開発も進められている。

欠点:新たな副作用も生まれており、致死性のものも確認されている。患者さんからT細胞を採取、遺伝子を改変してCAR-Tに変換した後、培養する、という複雑な工程を経るため、非常に薬価が高い。キムリアのケースは有名。
この分野の研究の歴史が浅く、完全には作用機序が解明されていない部分がある。

⑥遺伝子治療(AAV遺伝子編集を含む)
利点:疾患の原因となる遺伝子そのものを対象とするため、狙い通りに治療できれば一度で完全に治癒させることが可能なケースも存在する。

欠点:重篤な疾患が一度で完治するケースもあることから、価格が非常に高く設定されている。ゾルゲンスマの例は有名。
現在の技術では遺伝子の発現や編集は完全に狙った通りに行くわけではないため、予知できない副作用を生む可能性がある。
胎児の段階で遺伝子を書き換えることも可能で、優生思想の温床になりかねないなど、倫理的な問題がある。

⑦マイクロバイオーム治療(便移植、微生物群カクテルなど)
利点:腸内環境は精神神経系、自己免疫疾患、がん、肥満など非常に多くの疾患との関連が指摘されており、数多くの治療法が確立される可能性がある。

欠点:投与後、時間の経過とともに薬効が消失するケースや、便移植された患者が他の感染症を引き起こしたり、死亡したりするケースも知られており、まだまだ研究が必要な領域。また、GMPグレードでの微生物培養法の確率など、安定供給にも高いハードルがある。

ファージ治療
利点:特定の細菌にのみ感染するので、人体だけでなく、腸内細菌など無害な菌には影響しないようデザインが可能。投与後は、対象細菌に感染・増殖、溶菌により娘ファージの放出というメカニズムで体内増殖するので、理論的には少量投与で作用する。つまり、投与した薬剤が体内で増える、という普通では考えられない挙動を示すモダリティ。

欠点:特異性が高すぎるため、複数の細菌を対象にしたい場合は複数ファージのカクテルを用いる必要がある。また、他のモダリティと比較すると研究者が少なく、発展途上分野である。

⑨予防・治療アプリ(WellDoc社のBlueStarなど。健康増進のための生活習慣管理アプリなども含む)
利点:一度アルゴリズム開発すれば、アプリを配信しデータを管理するだけなので、製造や在庫管理を気にする必要がなく安価に配信が可能。一般的なアプリと同様、アップデートも可能。
離島や過疎地など、医師が少ない地域でもケアが可能。ライセンス購入によって使用可能な機能が増えるなど、患者ごとの機能コントロールが容易。

欠点:専用の機器が必要な場合はハードルとなる。また、常にセキュリティの問題がつきまとう。
予防アプリは健康な人にその重要性が認知されにくく、ユーザーの獲得やマネタイズが困難。
法整備も完了しておらず、今後どのような使われ方をし、規制が敷かれるかも全く未知。2019年12月の段階ではApple watchの心電計機能は日本国内販売版では使用不可。

所感

さて、数多くのモダリティを列挙しましたがいかがでしょうか。まだ承認されていないものもありますし、あくまでも私の思っている印象ですので間違いがあればご指摘いただけると幸いです。

今回は⑨の「予防・治療アプリ」もモダリティとして扱いました(法律上は医療機器扱い)が、日本国内での実現にはまだ少し時間がかかりそうです。薬を飲むだけでなく、スマホやスマートグラスで治療を受ける時代は果たして実現するのでしょうか。そして、各モダリティの相乗効果がもたらす物は一体何なのでしょうか。

明日は、その相乗効果と治療にかかる薬価について、将来の疾患治療体系像も含めて考えたいと思います。

ノブ

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